目次
コーヒー農家が一番恐れている病気を知っていますか?それは、「コーヒーの木のさび病」と呼ばれています。さび病が発生すると、コーヒー価格は高騰します。農園のコーヒーの木が壊滅状態になり、収穫ができなくなるからです。 この記事では、
- さび病とはどのような病気なのか?
- さび病の具体的な症状について
- さび病の原因について
- さび病を防ぐために取られている対策について
- さび病と生産されているコーヒー豆との関係について
- コーヒー農家とさび病との戦いの歴史について
- さび病以外のコーヒーの病気について
お伝えします。 地球温暖化の気候変動は、さび病の発生にも深刻な影響を与えています。コーヒー豆の生産量が、現在の50%になると予測される「2050年問題」。この記事を読めば、コーヒーの木とCoffeeの新たな一面を発見することでしょう。
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最も恐ろしい病気!?コーヒーの木のさび病について
コーヒーの木のさび病は、どのようなところが恐ろしい病気なのでしょうか?葉からスタートした病気が、農園中の木を枯らし国中に拡散。そして、隣国まで感染が広がってしまいます。感染を封じ込めることがとても難しく、コーヒーの木を根絶やしにするのです。コーヒーの木がかかる最も恐ろしい病気
さび病は、カビが原因で発生する病気です。英語では、「coffee rust」。コーヒーの木だけでなく、野菜類でも発生します。さび病だけでも40種類の型があるのです。 コーヒーの木のさび病を起こすのは、「コーヒーさび病菌(Hemileia vastatrix)」です。カビ菌の一つで、胞子はオレンジ色をした粉状をしています。葉から葉へ伝染して、やがては木を枯らしてしまう恐ろしい病気です。空気感染するため、一度広がると対処できなくなることも
空気感染で、胞子が風にのり拡散していきます。湿度の高い環境で広まりやすく、予防は困難です。広まったコーヒーさび病菌は、やがて国中の農園へ伝染し、国を越えて被害が拡大します。症状がひどいと2〜3年でコーヒーの木を枯らす
葉の裏に、赤さびのような斑点が発生します。斑点が葉全体に広がると、葉が枯れて落ちます。さび病になった葉は、光合成ができません。そのまま状況が変わらないと、2年〜3年でコーヒーの木は枯れてしまいます。早めに気づこう!さび病の初期症状
さび病自体は、野菜類でも発生する病気です。植物の栽培で気をつけておかなければならない病気の一つです。さび病がどのように生じて、症状が進むのか確認してみましょう。葉の裏に斑点が現れる
葉の裏側にさび病菌がピタッと張り付いて、菌糸を伸ばします。伸びた菌糸が、葉肉を侵食して赤いさびのような斑点が現れるのです。この時点で、斑点が出た葉を取り除くことができれば被害を最少に抑えられます。進行すると、範囲が拡大し、盛り上がった斑点になる
やがて、斑点の部分が盛り上がってきます。オレンジ色の胞子が、表皮を破って飛び出すと周辺の葉にも被害が広がります。中期症状=葉の表面や茎にも斑点ができる
症状が進むと、葉の表面や茎にも斑点ができます。胞子が付着した部分で、被害が広がっているのです。後期症状=葉や茎が歪んで枯れる
新たにできた斑点から、さらに胞子が飛び出します。周辺の葉や茎がさび状の粉に覆われたようになり、枯れていきます。最後には、葉や茎は歪んで枯れてしまいます。そんなも恐ろしいさび病の原因とは?
コーヒー農家に最も恐れられている、さび病の恐ろしさは何なのか?何が原因で起きるのか、詳しくみてみましょう。「コーヒーのさび病菌」と呼ばれるカビが原因である
コーヒーの木のさび病は、「コーヒーさび病菌(Hemileia vastatrix)」と呼ばれるカビが原因で出現します。高温で高湿度の環境で発生する、コーヒの木に固有の伝染病です。つまり、「コーヒのさび病菌」は他の野菜類には感染しません。カビが空気に運ばれてコーヒーの木に付着する
カビの胞子が風に乗って、コーヒーの木の葉に張り付くと感染します。発生をすると、農場すべてのコーヒーの木に伝染するほど感染力が高い病気です。コーヒーの木の特有の事情に、栽培場所が限定されていることがあります。コーヒーの栽培は、「コーヒーベルト」と呼ばれる北緯25度〜南緯25度に限られています。そのため、他の植物と比べて狭い地域で栽培されているのです。どうしても感染が拡大するスピードは、速くなります。生育期間になるまで潜伏しているため、一瞬で繁殖する
1970年のブラジルで起きた被害では、発生した時点で5年前に発病していたと思われる調査の例もありました。葉に侵入を始めた菌が、新たな胞子を発生する期間は、20日から30日以上。潜伏期間は、最高平均気温と最低平均気温との関連があるので時期により微妙に変わります。気候変動による気温の上昇で、潜伏期間は短くなってきています。コーヒーの木がさび病にならないための対策
それでは、さび病にかからないで育てる方法があるのでしょうか?コーヒーの木を元気に育てる方法はあります。さび病にかからないためには、まずはコーヒーの木のエネルギーを高めること。最新のさび病対策も含めて見ていきましょう。現在では、農薬によってある程度抑えることができる
長年の研究の成果で、さび病に効く農薬がわかってきました。今では、農薬によってある程度症状を抑え込むことができます。銅殺菌剤を散布することで防げる
銅殺菌剤を散布することで、コーヒーさび病菌の被害を防げます。しかし、デメリットもあります。予防の効果はあるのですが、薬剤への耐性がついてしまうのです。薬剤への耐性を検討しながら、複数の殺菌剤を使い時期を変えながら散布しなくてはなりません。必然的にコストが高くなります。みだりに農園に人を入れない
空気の流れに乗って菌が農場に流入するのを防ぐために、農園への人の出入りは最低限にします。農園を訪れる人は、手洗いや衣類の洗濯を徹底して、基本的な衛生管理を行います。バランスの取れた栄養を与える
コーヒーの木の三大栄養素である、窒素・リン・カリウムをバランスよく与えます。コーヒーの木が元気なら、さび病菌が伝染しても軽症の可能性があるからです。さび菌を食べる害虫「オナジマイマイ」の活用も今後考えられる
2020年アメリカのミシガン大学が、コーヒーの木のさび病について興味深い研究を発表しました。カタツムリの一種である「オナジマイマイ」が、コーヒーの木のさび菌を食べるというのです。しかしこの方法にも、問題があります。「オナジマイマイ」自体が、作物害虫だからです。環境問題などこれからの研究の報告を待つ対策ですが、さび病をコントロールできる日が来るかもしれません。さび病に強いコーヒーの木の品種はないの?
普段わたし達が飲んでいるCoffeeには、二つの種類があります。さび病に強い品種があるのか、味や品質に違いがあるのかを見てみましょう。コーヒーの品種には大別すると二種類ある
コーヒーの品種は、大きく二種類に分類されます。「アラビカ種」と「カネフォラ種」です。一番大きな違いは、染色体の数と受粉方法です。「アラビカ種」は染色体の数が44本で、自分の花粉で受粉する自家受粉。「カネフォラ種」は染色体の数が22本で、自分の花粉では受粉しない自家不和合性です。具体的にはどのような違いがあるのでしょうか?アラビカ種=エチオピア在来種・ティピカ
アラビカ種は、エチオピアが原産の品種です。標高1000m〜2000mの熱帯高地で栽培されています。霜や乾燥に弱く、さび病の被害に弱い品種です。また、1本の木から取れる豆の量が少ないという特徴があります。しかし、重要なのはテイストです。酸味が強く、花のような香りがします。主にレギュラーコーヒーの原料として使われているため、アラビカ種の方が高値で取引されています。栽培の60%を占めているのが、アラビカ種。ティピカは昔からあるアラビカ種の亜種で在来種の一つです。カネフォラ種=ユニロン・ウガンダ・ロブスタ
カネフォラ種は、アラビカ種より丸みを帯びた豆です。標高が300m〜800mと、アラビカ種が育たない低地で栽培されています。1本の木から取れる豆の量が多いのが特徴です。苦味が強く、渋みがあり、酸味はありません。焙煎をすると、麦茶に似た香ばしい香りがします。そのため、主にインスタントコーヒーやブレンド用として使われています。世界で栽培されるコーヒー豆の40%がカネフェラ種。実は、病気にとても強い品種です。ユニロン・ウガンダ・ロブスタは、カネフォラ種のコーヒーです。さび病の被害を受けて、さび病に強いロブスタ種が広まった
カネフォラ種の亜種であるロブスタ種は、1898年にアフリカのコンゴで発見されました。病気に強く、ラテン語の頑丈・力強いという意味から名付けられました。コーヒーさび病菌に完全な耐性を持つ品種です。そのため、当時さび病が流行していた東南アジアでは、ロブスタ種の栽培が広がりました。現在でも東南アジアでは、ロブスタ種の生産が行われています。さび病に強いアラビカ品種はまだない
さび病が発生してから、さび病に耐性を持つ品種との交配が進められてきました。さび病に強いアラビカ種も出てきましたが、すべてのさび菌に耐性を持つアラビカ種は、まだできていません。なお、ロブスタ種はさび病に耐性があります。しかし、高品質な豆を栽培できる地域が限られており、アラビカ種の完全な代わりにはなっていません。さび病対策の品種改良は現在も続けられている
現在でも、病気に強いアラビカ種とロブスタ種との交配は続けられています。コーヒーの木は、地球温暖化の影響で栽培に適した環境が狭くなり、栽培地の高地化が進んでいます。そのため、病害虫に強い品種の改良は緊急の課題です。さび病にかかったコーヒーの木のコーヒー豆は収穫できるの?
病気になってしまったコーヒーの木から、コーヒー豆は収穫ができるのでしょうか?コーヒーの木がさび病にかかると、コーヒーの果実は実りません。枯れてしまうため収穫することはできない
さび病にかかると、葉に斑点が出ます。病気になった葉は、光合成を行えません。さらに病気が進むと、すべての葉が枯れてしまいます。コーヒーの木そのものが枯れてしまい、果実の収穫はできません。農園ごと被害を受けることもあり、収穫量が大幅に減る
さび病がコーヒー農家に一番恐れられているのは、空気感染により農園すべてのコーヒーの木が被害を受ける可能性があるからです。そうなれば、収穫量が激減し農園経営は大打撃を受けます。コーヒー豆の価格高騰の原因となっている
収穫量が減れば、コーヒー豆の価格は高騰します。最近では、2013年と2021年にアラビカ種のコーヒー豆の価格が高騰しました。特に2013年の価格の高騰は、中南米のアラビカ種の産地でコーヒーさび病が発生したためです。さび病の被害は甚大!世界のさび病の歴史
過去には、さび病は産地を壊滅の状況に追い込む被害を与えてきました。コーヒー栽培の歴史は、さび病との戦いの歴史でもあります。15世紀からさび病の症状が確認された
コーヒーの木は、エチオピアが原産です。9世紀から10世紀にかけて、エチオピアからイエメンに伝わりました。15世紀には、イスラム教の修行者(スーフィー)の間で、修行のために飲まれ始めます。この頃、さび病の症状があったと伝えられています。 イエメンの重要な交易品となったコーヒー豆は、1538年当時イエメンを支配したオスマン帝国によって種苗の持ち出しを禁止されました。種苗が門外不出であったため、病気が広がることはなかったのでしょう。17世紀に入ると、さまざまなルートでコーヒーの苗が世界に伝わっていきました。1867年にセイロン島で発生した世界初の大流行では壊滅状態に
1867年、スリランカでさび病が発生しました。これが世界で最初の大規模なコーヒー農園でのさび病の被害です。翌年には、インドへ伝わり、1888年にはインドネシアに達します。セイロン島でのさび病の被害は甚大で、コーヒー農園は壊滅してしまいます。当時、セイロン島ではコーヒー栽培が主流でした。荒廃したコーヒー農園の跡地を、お茶の栽培に転用したのが現在のセイロン紅茶の始まりです。1970年代の大流行では、品種改良により壊滅は免れた
1970年代に、さび病はアメリカ大陸へ渡ります。1970年1月。ブラジルでの発生が報告されます。ブラジル全域に被害が広まり、1980年代には中南米のコロンビアやメキシコにも被害が拡大します。 ブラジルは官民一体となって、さび病に立ち向かいました。効果的な農薬の使用法を模索し、耐性のある品種の開発と試験栽培を行ったのです。さらに、病原となったコーヒーの木を除去し移動を制限。啓蒙活動と調査を繰り返し、コーヒーさび病の防御と対策を初めて確立させたのです。このようにして、コーヒー農園の壊滅は免れました。さび病以外にも甚大な被害をもたらす病気が
コーヒー豆に被害をもたらす病気は、さび病以外にもあるのでしょうか?ここからは、さび病以外の病気をみていきましょう。コーヒーの実に穴を開ける「コーヒーベリーボーラー(CBB)」
コーヒーベリーボーラー(CBB)とは、コーヒーの害虫の名前です。別名、コーヒーノミキクイムシといいます。体長は2mm以下。成熟し始めたコーヒーの果実の中に侵入し、産卵をします。その後、ふ化した幼虫がコーヒー豆の中身を食べてしまうのです。 1920年代にアフリカで発生し、1926年ブラジルに上陸。2010年頃には、ハワイでも発生しました。およそ100年かけて、全世界に広まった病気です。予防は、早期に発見すること。普段から、葉の表や裏を観察しベリーの先端に穴が空いていないか確認します。検疫の強化と殺虫剤を使って、予防をしています。コーヒーの実が壊死し、黒い斑点ができる「炭疽病(CBD)」
炭疽病(CBD)は、さび病と同じく菌が原因の病気です。コーヒーの木の樹皮内で、胞子が増殖します。その後、コーヒーの果実の表面に丸い斑点が現れ、実が熟す前に落ちてしまいます。最終的には、コーヒーの木全体に広がってしまう病気です。 ケニアで初めて報告され、その後アフリカ全土に広がりました。今のところ、アフリカ大陸に封じ込められています。農薬以外に有効な手段がまだ見つかっていません。高い標高と湿度、霧が出る環境で発生しやすいことがわかってきました。水の流れで感染が拡大していきます。【まとめ】コーヒーの木がかかるさび病とは?原因から対策方法まで徹底紹介
おしゃれな観葉植物のコーヒーの木が持つ、意外な歴史でした。 この記事では、- コーヒーの木のさび病の原因はカビであること
- カビの胞子が風に乗って、感染を拡大すること
- さび病は、広範囲のコーヒーの木を枯らしてしまうこと
- さび病に強い品種を求めて、品種改良が行われていること
- コーヒー農園とさび病の戦いの歴史について
- コーヒーの木の病気について